社長1人でも必要?社会保険の加入手続き方法

社長1人でも必要?社会保険の加入手続き方法

社長1人でも社会保険は必要?

社長が1人で会社(法人)を設立することはよくあることです。さてここで問題です。

「社長1人の会社は社会保険に加入しなければいけないでしょうか?」

……正解は「社長1人の会社でも社会保険は強制加入」です!

現在は法人の場合、社長1人の会社でも社会保険の対象になりますが、以前は雇用保険・労災保険に入れば、残りは国民年金・国民健康保険の加入でも認められていました。

その名残なのか、今も社会保険ではなく国民年金のままで済ませている中小企業は多いと聞きます。

これまで何度も社会保険に関する話はしてきましたが、現行の法律に背いて社会保険未加入で会社経営を行うことはあまりにもリスキーです。

社会保険未加入のデメリット1.最大2年の追徴金
社会保険未加入のデメリット2.法的な罰則がある
社会保険未加入のデメリット3.人材採用が困難
社会保険未加入のデメリット4.ハローワークで求人できない
社会保険未加入のデメリット5.関係者からの損害賠償請求

参考:
社会保険未加入は80万社!会社が被る5つのデメリット

そこで今回は、会社設立において必須な社会保険の加入手続きの方法について詳しくお伝えしたいと思います。

会社を経営していくなら雇用の検討はするはずです。仮に社会保険加入手続きを社会保険労務士に任せるとしても、ある程度内容は知っておいた方が良いでしょう。

最初から社労士を使うという方も少ないと思いますので。

社会保険加入の条件とは

社会保険に加入する場合、自社が「強制適用事業所」なのか「任意適用事業所」なのかをまず確認して下さい。

社会保険強制適用事業所とは

強制適用事業所とは、意思に関係なく社会保険に加入しなければならない会社(事業所)のことです。強制適用事業所は、次のいずれかに該当する事業所を言います。

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・適用業種で従業員が5人以上の個人事業主
・業種、従業員数に関係なく法人
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法人の場合は、従業員数に関係なく全て社会保険に強制加入です。個人事業主の場合は、社会保険適用業種、かつ5人以上の場合は強制加入です。ちなみに、適用業種とは法定16業種と呼ばれる以下の業種のことを指します。

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製造・加工・包装・修理又は解体等(製造業)
土木・建築その他の建設・解体等(土木建築業)
鉱物の採掘・採取(鉱業)
電気・ガス等の発生・供給(エネルギー業)
運送業
貨物荷役業
焼却・清掃・屠殺業(小売・卸売業)
金融保険業
保管賃貸業
媒介斡旋業
集金・案内・広告業
教育・研究・調査業
医療
通信・報道業
社会福祉・更生保護事業
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社会保険任意適用事業所とは

任意適用事業所とは、社会保険に加入する権利を持った会社(事業所)のことです。年金事務所の許可(厚生労働大臣の認可)を受ければ健康保険・厚生年金保険に加入できます。

非適用業種に該当する個人事業主、または従業員が5人以下の個人事業主が任意適用事業所になります。非適用業種は以下の業種です。

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第一次産業(農林水産業)
理美容業・旅館・飲食・クリーニング等(サービス業)
社会保険労務士、弁護士、税理士等(士業)
神社、寺等(宗教業)
など
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ただし、任意適用事業所が一旦社会保険に加入すると社長の意思で勝手にやめることはできません。

社会保険の加入手続き方法

社会保険の加入手続きには、各種届け出書類と添付資料が必要です。各種届出書類と添付資料は、社会保険加入義務の事実発生から5日以内に行います。

また、書類の提出先は実際に事業を行っている事業所の所在地を管轄する年金事務所に、電子申請、郵送、窓口持参のいづれかで提出します。

社会保険加入に必要な書類

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・健康保険・厚生年金保険新規適用届
新規に健康保険・厚生年金保険に加入するときに必要
・健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
社会保険加入者(被保険者)の資格届けのために必要
・健康保険被扶養者(異動)届
家族を被扶養者にするときや変更する時に必要
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必要な書類は以下の日本年金機構サイトからダウンロードできます。

参考:
健康保険・厚生年金保険新規適用届:エクセルPDF記入例
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届:エクセルPDF記入例
健康保険被扶養者(異動)届:エクセルPDF記入例

社会保険の届出書類1.健康保険・厚生年金保険新規適用届

健康保険・厚生年金保険新規適用届は、初めて社会保険に加入する際に必要な書類です。法人は社会保険加入は義務であるため、会社設立後すぐにこの届出を提出しなければいけません。

上記「健康保険・厚生年金保険新規適用届」をダウンロードして、記入例を参考に必要事項を記入します。

必要な添付書類や情報

必要な添付書類とその他情報は法人と個人事業主で違います。

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法人の場合
・商業謄本の原本(ネットではなく法務局のもの)
・事業所所在地の確認できるもの(事業所の所在地が登記上の所在地と異なる場合のみ)

個人事業主の場合
・代表者の住民票謄本(世帯全員)の原本
・事業所所在地の確認できるもの(事業所の所在地が登記上の所在地と異なる場合のみ)
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社会保険の届出書類2.健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届

健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届は、社会保険加入者(被保険者)の資格届けのために必要な書類です。社長はもちろん、従業員を採用する度に届け出なければいけません。

上記「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」をダウンロードして、記入例を参考に必要事項を記入します。

必要な添付書類や情報

被保険者の基礎年金番号が必要です。年金手帳のコピーを用意してもらうと良いでしょう。

基礎年金番号

健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届は、新しく雇用した従業員1人1人に対して必要な書類なので、入社日が決定したらその日から5日以内に提出しなければいけません。

社会保険の届出書類3.健康保険被扶養者(異動)届

健康保険被扶養者(異動)届は、社長や従業員の家族に被扶養者がいる場合、または変更する時に必要な書類です。

上記「健康保険被扶養者(異動)届」をダウンロードして、記入例を参考に必要事項を記入します。

扶養者の範囲

扶養者と認められるためには条件があります。それは被保険者と同居しているか、同居していないかによってわかれるため、しっかりと家族状況を聞いて、抜け漏れがないようにしましょう。

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被保険者と同居の必要がない者
・配偶者
・子・孫および弟妹
・父母・祖父母などの直系尊属※1

被保険者と同居が必要な者
・3親等内の親族※2
・内縁関係の配偶者の父母および子※3
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※1.一般的には、自分の父母、父方の祖父母、母方の祖父母という6人が直系尊属に該当します。
※2.兄姉・伯叔父母・甥姪とその配偶者などが3親等内の親族に該当します。
※3.内縁関係の配偶者の死後、引き続き同居する場合は該当します。

必要な添付書類や情報

扶養者の年間所得が103万円超~130万円未満の場合は「課税(非課税)証明書」が必要になります。103万円以下の場合は必要ありません。130万円超の場合は、扶養家族に該当しません。

課税(非課税)証明書の取得方法や使い方は、以下を参考にしてください。

参考:
所得証明書(課税証明書)の使い方と取得方法

また、扶養者になる条件、課税条件である103万円、130万円の壁の問題は以下で詳しく説明しています。

参考:
主婦はパートと個人事業主どちらが得?扶養、国保、社保問題

また、年収が130万円未満の20歳以上60歳未満の配偶者の場合、「国民年金第3号被保険者該当届」の提出が必要になります。

国民年金第3号被保険者とは、国民年金の加入者のうち、厚生年金・共済組合に加入している第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(年収130万円未満)のことを言います。

国民年金第3号被保険者該当届は、上記、健康保険被扶養者(異動)届の3枚目にあります。記入例は以下を参考に。

参考:
国民年金第3号被保険者該当届記入例

被保険者の「健康保険被保険者証」も必要です。もし紛失している場合は、「健康保険被保険者証回収不能・滅失届」を添付して提出します。

また、被保険者が「高齢受給者証」「健康保険特定疾病療養受給者証」「健康保険限度額適用」「標準負担額減額認定証」を保有している場合は、それも添付して提出します。

社会保険料の支払方法

もしあなたが起業前なら社会保険を軽く考えない方が良いでしょう。甘く見ていると痛い目を見る……それが社会保険です。仮に1人あたりの給与を30万円とした場合、以下が毎月払う社会保険料の目安です。

健康保険料+厚生年金保険料+雇用保険料+労災保険料=社会保険料
各社会保険料を合計すると以下の金額になります。

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会社負担:41,166円+2,550円+1,050円=44,766円  14.922%
社員負担:41,166円+1,500円=42,666円  14.222%
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つまり、平生27年1月現在で会社の負担は支払っている月額給与の15%ほど、社員の負担は14%ほどになるということです。

参考:
会社負担は社員給与の15%!社会保険料シミュレーション

上記で考えると、給与30万円の社員を10人雇用すると社会保険料は10人分で約45万円/月、年間で540万円です。毎月の支払い額がこれだけ大きいため、社会保険料を加味したキャッシュフローを考えておかなければいけません。

社会保険料の支払いは年金事務所の窓口で支払うか口座振替を使います。口座振替を選択する場合は「保険料口座振替納付申出書」を年金事務所でもらい、管轄の年金事務所へ提出して下さい。

社会保険料は社会保険加入日が月初でも月末でも日割り計算はされず、1ヶ月分の社会保険料がかかるため、加入時期に気を付けましょう。毎月支払う社会保険料は以下の様に考えます。

社会保険料の徴収・納付は、一般的に翌月徴収・翌月納付となっています。

翌月徴収・翌月納付とは、例えば4月分の保険料の納付は5月末日(翌月納付)なので、5月に支給される給与から徴収するというルールです。

参考:
社会保険未加入、保険料未納で受ける罰則や追徴金

もう一つ覚えておきたいことは、社会保険料の算定方法です。以下の様に標準報酬月額が決まり、標準報酬月額を基に社会保険料が算定されます。

期首に決まった月収が30万円だったとしましょう。期首が4月の会社もあれば、12月の会社もありますが、その時期には関係なく毎年1回、4月・5月・6月の月収の平均額が標準報酬月額になります。

標準報酬月額に対応した厚生年金保険料、健康保険料が社会保険料のベースです。保険料は会社と従業員とで折半し、会社が給与から天引きした上でまとめて支払いを行います。

参考:
社会保険未加入、保険料未納で受ける罰則や追徴金

社会保険の加入手続き方法まとめ

日本に住んで、日本で会社を設立するなら社会保険の加入は義務です。最近ようやく社会保険未加入業者への注意喚起がなされ、今後厳しく取り締まりが行われようとしています。

冒頭に社会保険未加入によるデメリットを挙げましたが、最も重いものはやはり追徴金や罰則です。社会保険料が高いことを知っていれば、追徴金が会社に与えるダメージも想像できるはずです。

参考:
社会保険未加入、保険料未納で受ける罰則や追徴金

従業員が4人以下の個人事業主、または非適用業種に該当する個人事業主なら良いのですが、それ以外の事業者が社会保険加入を免れるために時間をかけることは非常にもったいないのでやめましょう。

また、意外と知らない方が多いのですが、社会保険加入手続きは郵送で可能です。起業当初は社長の時間は色々なものに割かれるため、社会保険加入手続きが面倒だと思うかもしれませんが覚えてしまえば簡単です。

効率良く手続きを行い、事業者としての義務を果たすようにしましょう。

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