【図解でわかる!】在庫が経営に与えるメリットデメリット

【図解でわかる!】在庫が経営に与えるメリットデメリット
千須和知久
監修者
千須和 知久 税理士
S55東京国税局入局、H28ちずわ税理士事務所を開業。
財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応

世の中に絶対儲かる商売はあるのか?

絶対に儲かる商売とは何でしょうか。……まぁ……そんなものはありませんが、

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・利益率の高い商売
・在庫を持たない商売
・定期的に一定額の収入が入ってくる商売
・資本ゼロあるいは小資本で始められる商売
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上記はホリエモンが、起業する際に「ほぼ儲かる・ほぼ成功する条件」とブログで話していたものです。確かにこれだけの条件が揃った商売を行えば、「ほぼ儲かる・ほぼ成功する」と言っても良いのだと思います。

更に言えば、「固定費のほとんどかからない商売(下記5項目目)」が該当すれば完璧(?)です。

利益の出る商売

今年は、コロナウイルスや川の氾濫でお店を開くことができず多くの小売業や飲食店では、売上が90%減になり、その結果商売を諦めざるえなくなりました。

その理由は、テナント料という固定費です。
また、食材である材料を多く仕入れても廃棄せざるえなくなり、仕入れコストがそのまま財務を直撃したのです。

在庫は仕入れただけではなく、品質維持や保管スペースの確保といった固定的にかかる費用を発生させます。
その為、在庫管理は非常に重要な業務となります。

では、すでに商売を行っている方はどうすれば良いのでしょう。「ピボット(方向転換)でもする?」と言われても、設備投資が大きな事業や在庫を抱えている事業であれば簡単にピボットはできません。

在庫や設備を抱える事業を営んでいる会社は、今の環境の中で最適な商売方法を考えていくしかないわけです。

ところで、「在庫は持たない方が良い!」という言葉はそこかしこで聞きますが、この理由はわかりますか?

もちろん「在庫=デメリット」とは言いませんが、このような言葉をよく聞くということは、在庫を抱える商売は何らかの方法で在庫を減らす努力をした方が良いのでしょう。

そこで今回は、「ほぼ儲かる・ほぼ成功する」に近づいていくために、在庫を抱える経営のメリットとデメリットを解説したいと思います。

在庫とは

在庫とは、企業が加工や販売するために保有する一定時点における原材料・仕掛品・製品・商品などのことです。

または、通常1年以内に使用する消耗品を大量購入し、複数年に渡って使い続ける場合も期末の残数を在庫と考えます。

在庫を仕入れた場合の資産の動き

例えば、商品や材料を現金で購入した場合、資産の動きは下記のようになります。

現金で支払われるので、資産である現金が減ります。

また、モノが納品されるので、仕入れた材料や商品は資産に在庫として入ります。

ポイントは、資産の動き(貸借対照表)だけということです。
※仮に現金ではなく、掛け払いだと、負債として買掛金が増えます。

いわゆる、損益計算書にはこの時点では影響はでません。
何故なら、在庫は、売れて初めて売り上げとなるので、売り上げるまで損益計算書の動きはないのです。

在庫とは

棚卸資産

在庫は期末の時点で棚卸を行い、棚卸資産として計上するため経費計上ができません。

経費計上できないということは、その分利益が上がります。

仕入により現金が流出し、加えて納税額が高くなるので、現金の流出が多くなります。
その為、仕入の支払い時期と経費計上の期がずれる場合は注意が必要です。

在庫を多く持つ場合には、現金管理が大変重要になります。

在庫とは

在庫のメリット

まず在庫をもっていることのメリットについて整理しましょう。

1.機会損失の減少

在庫を抱えていれば商品の不具合があった場合でも代替品を用意するなど、顧客からのクレームに迅速な対応をとることができます。

さらに、市場の需要が急拡大しても在庫でまかなえれば、機会損失を最小限に抑えることができるでしょう。

2.顧客に対する安心感

小売店であれば、顧客が店頭で現物を確認してから購入できるため、商品に対する安心感が増します。

また、商品受注後すぐに納品ができるため、品切れなどの心配を与えることはありません。

最近は、ECサイトでの販売により仕入れから販売までのサイクルが早くなる傾向があります。
サイト上の商品に品切れが目立つとこのサイトでは実は物を置いてないのではないかと不安を与えかねないので品切れを無くことは重要な要素となってきます。

3.スケールメリットによるコストカット

在庫を大量に購入すれば1個あたり単価を下げることができます。場合によっては売上原価が大きく変わります。

事業や商品の特性にもよりますが、「大量仕入れによる単価コストの削減メリット(規模の経済)」を享受し、利益率を上げることができます。

利益率UPや業務円滑の観点からスケールメリットを出す為にある程度の在庫は必要です。

また、大量仕入れは、支払い際への実績となり購入条件を優位にすることができます。

例えば、支払い時期を2か月後にずらしたいり、発注だけして、必要な場合に納品してもうことで倉庫管理コストを抑えると言った交渉を行えるようになります。

在庫のデメリット1.陳腐化・品質劣化による商品価値の低下

在庫のメリットを見ると在庫を多く持つ方が良いように思いますが、デメリットもあります。メリットを打ち消してしまうほどの過剰在庫を抱えてしまうと、以下に示す悪影響が発生してしまいます。

市場の需要に対して過剰生産した製品や仕入れた商品は、過剰在庫として手元に残り続けます。財務会計的な概念ではなく、一般的に在庫は時間が経過すると品質が劣化(経年劣化)し商品価値が低下します。

また、表面的な品質の劣化が少ないとしても、在庫として保有する間に商品自体が陳腐化してしまうと商品価値自体が低下します。

在庫を抱えすぎて、事業が崩壊したのが「シャープ(SHARP)」です。

液晶パネルを作りすぎ、且つ世界的に液晶パネルの需要が飽和し、液晶パネルの単価が大幅に下落しました。
その結果、シャープは、2011年度、12年度の2年間に不良在庫処理などで9000億円を超える赤字を計上した。

そして、その後シャープは鴻海に売却されました。

商品が陳腐化してしまうと、値下げ販売をするか、廃棄をするしかありません。これでは見込んだ売上や利益が得られないばかりか、投入した資金元本も回収できず、損失が発生してしまった最悪のケースだったのです。

在庫のデメリット2.保管場所費用・管理費用の増大

在庫には保管場所と保管管理が必要です。仮に広い倉庫を持っていたとしても、在庫を煩雑に積み上げたり、温度・湿度管理が必要な在庫管理が雑だと品質劣化が早くなります。

また、在庫は出庫を考えた管理状態を作らなければ作業効率が悪くなってしまいます。かといって、作業効率を高める余分なスペースを用意するわけにもいきません。

これらのことから、在庫が多数あることで入庫における工場・倉庫・販売店を往復する輸送費・人件費、維持管理における倉庫の賃借料・光熱費・固定資産税・保険料などの維持経費、出庫における運搬や管理に伴う輸送費・人件費が増大します。

さらに、在庫が売れ残ったり、期限切れになると廃棄処分になるため、その輸送費用・処分費用もかかります。もちろん、商品を廃棄処分するということは、その商品管理にかかった入庫・維持・出庫の経費は全て無駄になります。

このように過剰在庫を持つということは、入庫、維持、出庫、廃棄という4つの過程全てに通常よりも多くコストが掛かるということです。

在庫コスト

在庫のデメリット3.社内改善の鈍化

過剰在庫を抱えていると製造機械の故障や不良品の発生などに追われてしまい、現場の改善が進まなくなってしまいます。

また、在庫は物理的に社内の見通しを悪くしてしまいます。管理体制のルール化や問題の洗い出しはある程度現場が見渡せなければ行うことはできません。

そのため、物理的に在庫がない社内よりも在庫がある社内の方が、社内体制を改善することは難しくなってしまうでしょう。

在庫のデメリット4.キャッシュフローの減少

在庫は期末に棚卸資産として会社の資産になります。貸借対照表上では資産として価値は維持されますが、キャッシュフローは悪化します。
キャッシュフローが悪化すると使える自由資金(フリーキャッシュフロー)が減少します。

当たり前ですが、在庫は売れなければ、お金が入ってきません。
その状態が続き、支払いをした期中に売れない場合、決算時に想定以上の納税額を計上することになります。
結果、納税する為に銀行から借入をするというケースもあります。その場合は、更に返済利息が発生します。

不要なコストを含まらせない為に、決算時の着地点をイメージしながらコスト管理を行う必要があります。

s在庫と損益計算書

参考:
会社経営の健全性を測るフリーキャッシュフローとは

貸借対照表上で同じ資産価値だとしても、現金を持っていれば新しい商品を仕入れて販売するなど流動性が高い資金運用ができますが、在庫のままでは資金運用は行えません。

会社は在庫を抱えることではなく販売をして現金化することが目的であるため、期末の棚卸資産が多い時点で当初の目的を達成できていないということになります。

在庫が経営に与えるメリットデメリットまとめ

私たちはなぜか「在庫」と聞くと、余ってしまっている商品や製品を思い浮かべてしまいます。

しかし、会社の本業を拡大していくためには、市場のニーズを見極めて戦略的に在庫を抱え、売上と利益を拡大していく方法も検討しなければいけません。

とは言え、製品や商品を市場の需要以上に抱え込んでしまうとキャッシュフローが悪くなってしまいます。

製品や商品は売れなければ現金に変わりません。現金にならなければ新しい製品を作ることもできません。

そして、期首在庫が売れなければやがて劣化し、陳腐化してしまい、廃棄処分するしかなくなってしまいます。

当たり前ですが、在庫は期末までに売り切ってしまうことが一番効率が良いということになります。

もちろん社長の立場では、最大限の売上を上げるため、顧客満足度を最大化するためにある程度の在庫を保有しておきたいと考える方も多いでしょう。

会社としてどちらを重視するか、どの程度の在庫をもつか、PDCAを回し方針を徐々に明確に決めていくことが重要です。なかなか悩ましい問題ですが。

在庫コストの天秤
千須和知久
監修者
千須和 知久 税理士
S55東京国税局入局、H28ちずわ税理士事務所を開業。
財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応

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