資本金の代わりになる現物出資の対象物、手続き方法、注意点

資本金の代わりになる現物出資の対象物、手続き方法、注意点

現物出資とは

いくら1円起業ができると言っても、全くお金がなければ起業はできません。

なぜなら、場所を確保し、仕入れをし、商品が売れるまでは人件費を捻出し、営業に必要な設備を整え……、会社経営にはお金が必要だからです。

そこで会社経営に必要な資金を予定立て、資本金額の設定をします。資本金は以下の意味を持ちます。

資本金は、「会社を運営するために発行される株式と交換することによって集めた資金」のことです。資本金は、あなたが出せばあなたが出資者、第三者が出せばその人が出資者になります。

参考:
株式会社設立費用の目安と資本金を決める4つの考え方

ところであなたは、資本金の「現物出資」というものを知っていますか?

実は、会社経営に必要な資本金は、現金以外で代替することも可能です。

それは”物”です。自動車でも土地でも構いません。”物”をお金の代わりに差し出すことで出資と同等の効果を得られます。

「でも使えるお金が増えるわけじゃないから、どうでも良くない?」

と、若かりし頃の私は思っていました。ただ、現物出資はうまく活用するとメリットを得られる可能性があります。

そこで今回は、現物出資がどのような制度なのか、どんな物が現物出資として認められるかなどをお話したいと思います。

現物出資を理解できたら、以下の現物出資をして得られるメリットも合わせて読んでみてください。

参考:
融資額が増える!?意外な現物出資の3つのメリット

現物出資の対象物とその取り扱い

現物出資の目的となる対象物は厳密には物である必要はなく、貸借対照表上の資産として計上できるものが対象になります。

現物出資の事例

事例として挙げると以下のようなものです。「こんなものも!?」という意外なものも現物出資の対象になります。

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・有価証券…株券、債権など
・製品…仕掛品・原材料など
・貸付金…会社に貸し付けているお金など
・不動産…土地、建物など
・機械…機械設備など
・車両運搬具…自動車、バイク、自転車など
・工具器具備品…工具やコピー機、ファックスなどです。
・無形固定資産…特許権、知的財産権、営業権など
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その他にも、パソコン、オフィス家具、書籍類、地上権、ノウハウ(暖簾)、ホームページなど、現物出資できる物は多岐にわたります。

確かにこれらは、貸借対照表に記載することができるものばかりです。その観点で考えると対象物はまだまだあります。

現物出資をする方法とは

起業時は、発起人のみが現物出資できます。発起人=出資者です。

定款に現物出資の記載が必要

現物出資をする場合は、定款に以下の内容を記載する必要があります。

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・現物出資をする者の氏名又は名称
・現物出資の目的たる財産
・その価額
・出資者に対して与える設立時発行株式の数
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現物出資額が500万円超の場合は外部調査が必要

現物出資額が500万円を超える(であろう)場合は、裁判所が選任した検査役(弁護士や公認会計士)の調査が必要です。

そして、検査役の調査にはある程度の日数と日数に応じた調査費用がかかります。

そのため通常は500万円以下になる物を選択して、期間や費用など現物出資のハードルを下げるようにしましょう。

現物出資額が500万円以下の場合は内部証明書が必要

出資額が500万円を超えない場合は、その会社の設立時取締役による調査と証明書(現物出資の価額が妥当であるという調査報告書)を用意すれば現物出資を行えます。

この場合の現物出資価額の妥当性は「市場価格」です。

例えば、自動車や機械類などは、減価償却資産として経過時間による価値が決まりますが、そうではなくあくまでも「市場価格」を参考にしなければいけません。

例えば、300万円の自動車であれば、新車購入して1年経つと減価償却資産としての価値は250万円になりますが、市場価格としての価値はもっと低いでしょう。

逆に6年落ちの車は減価償却資産としての価値はほぼなくなってしまっていますが、もし走行距離が1万kmのRV車だったら、6年経っていても200万円近い市場価値はあるかもしれません。

減価償却資産の価値は以下の耐用年数によって決まります。ご参考まで。

参考:
減価償却資産の種類と耐用年数一覧
減価償却の定額法と定率法は経営状態で使い分ける!

現物出資額が500万円以下でも、物によって複数の書類が必要

現物出資額が500万円以下の場合でも、設立時取締役の調査報告書以外の書類が必要な場合があります。

例えば、不動産の場合は不動産鑑定士による鑑定証明書、税理士による適正価格証明書が必要です。価格がわかりにくい美術品などは鑑定士による鑑定書が必要です。

その他にも、不動産では所有権移転登記が必要ですし、自動車は名義変更届けが必要です。

現物出資に必要な手続きの流れ

さて、無事に現物出資する物が決まったら、手続きに移りましょう。

会社が発行する「財産引継書」

現物出資者は、定款に書かれた株式を引き受けたのち、現物出資の対象物を会社に納めます。

起業時の現物出資の場合は、現物出資の対象物が会社に引き渡された際に財産引継書を作成し、設立時取締役の「調査報告書の附属書類」として、設立登記申請書に添付し法務局に提出します。

設立時取締役が発行する「調査報告書」

現物出資に関しては、設立時取締役が価額の妥当性を調査し、調査報告書を設立登記申請書の添付書類とします。

極端な話をすると、現物出資者が1万円の価値の物を100万円と主張して現物出資することもあり得ます。

このようなことがないように、もしも現物出資の価額が相応ではないと判断された場合は、発起人、及び設立時取締役には不足分を現金で用意する義務が発生します。

会社及び現物出資者の課税処理

現物出資は、現物出資者、法人共に注意が必要です。

それは処理の際にお金がかかったり、課税対象になる可能性があるためです。

例えば、譲渡所得として所得税の課税対象になる現物には以下の様なものがあります。

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土地、借地権、建物、株式等、特定の公社債、金地金、宝石、書画、骨とう、船舶、機械器具、漁業権、取引慣行のある借家権、ゴルフ会員権、特許権、著作権、鉱業権、土石(砂)など
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確かに資産計上できるものばかりです。

よくある不動産の現物出資

不動産の場合、出資した不動産の時価ではなく、現物出資により取得した株式の価額が譲渡所得額となります。

ただし、その価額が出資した不動産の時価の2分の1未満の場合は、出資した不動産の時価が譲渡所得額とみなされます。

もちろん不動産の場合は所有権移転登記が必要なので、登録免許税がかかりますし、不動産を取得した法人には不動産取得税や今後も固都税(固定資産税と都市計画税)がかかります。

よくある自動車の現物出資

自動車の場合も所有権移転登記が必要ですし、自動車税や自動車取得税が法人にかかります。

また、現物出資者には、自動車の価額に応じた譲渡所得税がかかる場合があります。ただし、自動車を事業用途ではなく通勤に使う場合は、所得税は掛かりません。

資本金の代わりになる現物出資の手続き方法と注意点のまとめ

現物出資がどのようなものかわかっていただけたでしょうか。

起業時に発起人全てが現金を保有しているとは限りません。どちらにしろ必要なもの、経費で揃えるべき物があるなら、現金でも現物でも変わらないので、現物出資を有効に活用できるでしょう。

現物出資をして得られるメリットはこちらをご参考に。

参考:
融資額が増える!?意外な現物出資の3つのメリット

また、資本金の決め方に関してはこれまで何度も触れてきましたので、以下を参照してください。

参考:
株式会社設立費用の目安と資本金を決める4つの考え方
1000万円以上?999万円以下?資本金を決める3つの考え方

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