似てるけど全く違う仮払金と立替金、仮受金と預り金

似てるけど全く違う仮払金と立替金、仮受金と預り金
千須和知久
監修者
千須和 知久 税理士
S55東京国税局入局、H28ちずわ税理士事務所を開業。
財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応

似ているけど全く違う仮払金と立替金

起業一年目はとにかく覚えること、体験することが多くて大変です。中でも会計周りの処理は聞いたことがない言葉ばかり……。

もちろん、会計に関しては数年かけて学んでいく項目もたくさんありますが、起業一年目でも意外とよく使われる勘定科目に「仮払金」と「立替金」があります。

これらの勘定科目は、特に従業員を雇った後に多く使われることになります。また、キャッシュの出入りが激しい場合もよく使われます。

そして、使われる重要な勘定科目の割には間違われやすい科目でもあります。

また、「仮払金」「立替金」の他に、「仮受金」と「預り金」もごっちゃになってしまう方がいます。これらの勘定科目は似ているため、どこかでしっかりと区別して、認識しなければいけません。

仮払金とは

「大した違いはなさそうだし、そんなにきっちり分ける必要もないんじゃないの?」

いいえ、違います。仮払金と立替金、仮受金と預り金を間違えてしまうと顧客や従業員とのトラブルのもとになります。

そこで今回は、仮払金と立替金の違い、仮受金と預り金の違いを説明したいと思います。

仮払金とは

仮払金とは、取り引きにおいて必要になる可能性がある支出を一時的に処理するための科目です。英語では、Temporary advanceなどと呼ばれています。

仮払金とは

会計的に言えば難しですが、ポイントは2つです。

仮払金のポイント1

仮払金の説明で「取り引きにおいて必要になる可能性がある支出」と記載しましたが、要は「必要になるお金を事前に会社から渡している」ことです。

渡していることが前提となります。

仮払金を渡す

仮払金のポイント2

具体的に買うものが決まっていない。

「こんなことにお金がかかるだろうな~」というイメージはありますが、お店や出張に行ってみないとどんなことにどれくらいかかるか分かりませんよね。

仮払金を使う

具体的な例では、オフィスでお疲れ様会をするのに、飲み物やおつまみを買ってくる場合です。
経理の方から、1万円支給を受けて、買い出しに行くというケースですね。
上記でも記載しましたが、事前にお金を「渡されている」というのがポイントです。

仮払金の仕訳

上記2つのポイントが仕分けの理解に役立ちます。

まず、会社から事前にお金を渡しています。
そして、渡した社員から「何にいくらかかった」の報告を受けます。
よく使うのは、「精算書」ですよね。

「精算書」に領収書を付けて、経理に渡します。
よくある光景ですよね。

つまり、お金を渡している時は、お金の使い方が分からないので、「仮払金」として処理をしておきます。

借方科目 金額 貸方科目 金額
仮払金 10,000 現金 10,000

そして、精算書を見ながら、それが、交通費なのか、備品なのか、消耗品なのかの振替処理をするという流れになります。

では、経理から支給してもらった金額より費用が掛かってしまった場合はどうでしょうか。

例えば、1万円支給してもらったけど、全部で1.2万円かかってしまったケースです。

この場合、2千円分は、社員が負担しているので社員から精算書を受けた場合は、現金(資産)分を減らす仕分けを行います。

仮払金を振替
借方科目 金額 貸方科目 金額
雑費 12,000 仮払金 10,000
現金 2,000

今回は、飲み会の買い出しを例にとったので、雑費扱いにしましたが、出張に使った場合は、「旅費交通費」といった勘定科目になります。
仮払金は、利用目的は明確でない為、使った用途が明白になった時に、支払い用途に合わせて勘定科目を変えていく処理を行います。

ちなみに小口現金とも間違えられますが、小口現金は経費処理等をするためにある程度決まった金額を用意しておくための科目なので、違うということを覚えておきましょう。

参考:
法人クレジットカードのメリットと小口現金を併用する管理方法

POINT
もし決算時に仮払金の金額や用途が確定しない場合には、貸借対照表の資産の部「その他流動資産」に振り分けられます。また、勘定科目内訳明細書に立替金と仮払金を記載しますが、法人税の計算に影響がでますので曖昧な仕分けだと税務署の立ち入り時に指摘されることがあります。

仮払金の事例

仮払金の事例として下記のようなものがあります。
・出張旅費や交通費など営業に必要になる事前経費
・買い出しにかかる経費
・何らかの用途に使う小口現金
など

立替金とは

立替金とは、取り引きにおいて役員や従業員、また取引先が支払うべき金銭を一時的に立て替えた時の科目です。

立替金とは

会計的に言えば難しですが、ポイントは2つです。

立替金のポイント1

本来支払う人/会社の代わりに、会社が支払っておく

立替金を建て替える

例えば、発注者が資材等を提供して、その材料を使って組み立てや製品を完成させるような場合です。

本来は、発注者が支払って資材を買っておくべきですが、それが間に合わないので注文を受けた側(資材を提供される側)が知り合いから先に資材を調達しておく場合などが該当するケースです。

発注者からは、「請求書で一緒に請求しておいて~」なんていわれますよね。

会社からすると、先にお金が出ていくので、あまりやりたくないケースです、、、、。

立替金のポイント2

支払う目的が明確である。

ポイント1であげたように、発注先の代わりに材料費用を支払うというのは、支払い使途が明白ですね。

また、立替金処理を行うケースでは、実は社会保険料の支払いが該当します。

社員負担分の社会保険料は、給与から会社が源泉(差し引い)します。
源泉する理由は、本来社員が支払う社会保険料を会社が代行して回収し、社会保険事務所に支払うルールになっているからです。

回収業務は、日本の会社の義務になっているんですね、、、。社員を雇用するということは大変です!。

話を戻すと、この場合給与日から社会保険事務所に支払うまでの期間は、源泉した金額は「立替金」処理になります。

立替金と経理

立替金の仕訳

立替金は、会社が一時的に何らかの代金を立て替えて支払っているため、会社側が債権者になると考えます。

その為、立替金は、資産の部の中で、「現金」が「立替金」に振替られているのです。

現金を立替金に振替

もちろん、将来的に回収する必要はありますが、一時的に立替えているだけで貸し付けているわけではないので利息は発生いたしません。
また、債権の回収にあたるため、相手方によって現金・手形・売掛金との相殺などへの振り替えが考えられます。
これは、仮払金と同じ考え方ですね。

【立替え時】
発注先の代わりに材料を仕入れた(立替えた)場合で、発注先に立替金を請求するケース

借方科目 金額 貸方科目 金額
立替金 100,000 現金 100,000

【発注先への請求時】

借方科目 金額 貸方科目 金額
売掛金 100,000 立替金 100,000

立替金の事例

・役員や従業員の個人的な支払い
・取引先が負担すべき運送料、引落手数料など
・社会保険や雇用保険料等の保険の代行支払い
など

立替金と仮払金の違い

立替金と仮払金の違いはどのようなところなのでしょうか。
立替金と仮払金の大きな違いを理解するには2つのポイントを抑えておきましょう。

立替金と仮払金の違いを理解する2つのポイント

ポイント1

仮払金は何かしらの利益を生むための必要経費であるため、基本的には後日「精算する」

ポイント2

立替金は金銭債権である

仮払金と立替金の比較表

具体例

「出張があったため、社員が自分で一時的に旅費を支払った。」

この場合は立替金として仕分けすべきでしょうか、仮払金として仕分けすべきでしょうか。

答えは「仮払金として仕訳する」です。「旅費交通費」や「会議費」などで後日精算する必要があります。

では、これを「立替金として仕訳」してしまったらどうなるでしょう。
こうしてしまうと出張費が金銭債権となり、会社が社員に対して出張旅費の返還を要求する権利を得ることになります。
従業員としては、一旦自分が払っておいたのに、さらに会社から請求されたら堪りませんよね。

POINT
仮払金と立替金に関しては、「一旦支払っておく」という点では共通していますが、意味合いが大きく異なります。

仮払金処理は経理担当者を苦しめる?

仮払金は、支給した時は利用使途が不明です。そして、精算書を提出された時に支給した金額を振替処理が発生します。
支給金額と精算書の金額が1対1なら、処理も分かりやすいですが、利用使途が交通費精算や会議費、接待交際費など支払い内容が複数に分かれると非常に大変です。

また、仮払金件数が複数あると経理は数字の処理の付け合わせに非常に時間を取られてしまいます。
その為、経理部の月末や給料日前時期は多忙の日々となります。

結果、数字を間違えて、何度もチェックをし直すなんて話は、経理担当者の「あるある話」です。

仮払金処理を少しでも軽減するには?

清算書をどうやって処理していますか?

多くの会社では、エクセルで精算書を作って入力したファイルを印刷&データでもらうという運用をしていると思います。
そして、受けたデータを集計して会計ソフトに転記しているはずです。

この業務を効率的化することで、経理部門の負担を大きく削減することができます。

重要なのは、経理の集計だけではなく、精算書を作成する人の手間を少しでも軽減することも考えることです。

新しい生活様式により、今後は在宅勤務を多くする必要があります。
今は、クラウドによりサービスが安価になりました。

この機会に、清算情報と会計ソフトを自動連動させるシステム導入を検討するのが良いでしょう。

以下、実現方法です。

交通系ICカード

スイカ等の交通系ICカードを配布する。

「いつ、どこからどこまでいくらかかったか」のデータを取得することができるので、交通費精算が劇的に楽になります。

コーポレートカード

クレジットカードで購入した費用を自動的に会計ソフトに移行できるので、大変便利です。
「クレジットカードなので、好き放題使われても困る!」と思われる社長もいると思いますが社員としては何に使ったか全部わかってしまうので変なことに使わないでおこうという心理が働き、以外に経費のコストダウンにつながることもあります。

また、「うちのような会社ではコーポレートカードなんて作れない」と思われている社長もいますが、それは昔の話です。

今は、条件が緩和されて設立1年目の会社でもコーポレートカードが作れるなんてこともあります。

経費精算システムの導入

交通系ICカードと連動して、自動的に計算をする仕組みとなっており、集計した情報を会計ソフトに自動転送することもできるので、計算ミスやミス箇所の確認探しをする必要もなくなります。

決算書に仮払金があると銀行は嫌がる

仮払金は、利用目的が不明な状態でも支給できるので非常に柔軟な勘定科目です。
しかし、反面、放置すると中身が分からなくなり曖昧な処理をせざる得なくなります。

その結果、決算書に仮払金が多く残っていると銀行員は、「このお金はどうしたんですかね」と聞いてくることがあります。

悪意の処理ではないですが、何に使ったから分からない処理が多いと銀行の融資部としては「経理処理は大丈夫かな?」と不安を持ちます。

仮払金は、早い処理を行うことをお勧めいたします。

仮受金とは

仮受金とは、取り引きにおいて何らかの入金はあるが、入金事由が不明の場合に一時的に使用する科目のことです。

仮受金とは

たとえば、ある取引先と複数の案件についてのやり取りをしている場合、入金処理の過程で金額のズレが生じたり、そもそも用途がわからない入金があった……、など1度は経験があると思います。

もちろん通帳を確認しながら突き合わせ確認は必要ですが、科目を付けることはできないため、明確な確認がとれるまでの間は仮受金となります。

仮受金の事例

・理由の分からない入金金額
・受けたお金の処理科目が不明な金額
など

仮受金の仕訳

請求した金額より多く入金があったような場合です。

借方科目 金額 貸方科目 金額
現金 200,000 売掛金 180,000
仮受金 20,000

預り金とは

預り金とは、取り引きにおいて従業員や取引先から預かった金銭のことで、後日返金するか第三者に代理支払いを行うまで、一時的に使用する科目のことです。

預り金が1年を超える場合は、長期預り金という科目を使用します。

仮受金とは

預り金の事例

・従業員の社会保険料
・従業員の源泉所得税
・預り保証金(賃貸契約の契約保証金等)
など

POINT
消費税は物価の一部であり、預り金ではありません。

預り金の仕訳

賃貸契約をした場合の契約保証金の場合です。
「預り金」は、基本的には返す義務があるので、債務となり、貸借対照表では、「負債」に分類されます。

借方科目 金額 貸方科目 金額
現金 200,000 預り金 200,000

まとめ

仮払金と立替金、仮受金と預り金の違いを理解したことで、わかることは何でしょうか。

仮払金は用途が不明な支出です。そのため、あまり多くの仮払金を計上してしまうと、使途不明な金銭があるように見えてしまうでしょう。

仮払い金は用途不明な支出

立替金は債権です。立替金が多く、その回収時期が決まっていない場合は、キャッシュフローの一部がうまく回転していないように見えてしまうでしょう。

立替金が多い

仮受金が多い場合は、相手方との請求オペレーションの見直しが必要になるかもしれません。または、社内の請求管理がルール化されていないため、ミスが発生しているのかもしれません。

借受金が多い

預り金は、一時的なキャッシュに過ぎませんが、預り金の意識がなく使い込んでしまうと一気に経営状況が悪化してしまうでしょう。

預り金に関する注意点

このように、それぞれちょっとした違い(のように感じる)かもしれませんが、仮払金、立替金、仮受金、預り金の特性によって扱い方や注意の仕方が異なります。

特にこれらの勘定科目は、発生している明確な理由付けができなければ、金融機関に悪い印象を与えてしまうこともあります。

仮払金、立替金、仮受金、預り金はそれぞれ意味が違いますが、どれも現時点では最終的な処理項目が決まっていない仕訳項目のことです。つまり、外部から見ると使途不明金に見えても仕方がないものです。

参考:
銀行が思わず融資したくなる決算書の12項目

ちょっとした取り扱いの注意で見られ方が変わってしまうものなので、しっかりと理解した上で使い分けられるように覚えておいてください。

千須和知久
監修者
千須和 知久 税理士
S55東京国税局入局、H28ちずわ税理士事務所を開業。
財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応

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