【図解で絶対分かる!】損益分岐点とは?その計算法と活用法

【図解で絶対分かる!】損益分岐点とは?その計算法と活用法
千須和知久
監修者
千須和 知久 税理士
S55東京国税局入局、H28ちずわ税理士事務所を開業。
財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応

損益分岐点とは?

損益分岐点とは、一言で表現すれば「利益がプラスマイナスゼロの状態」です。利益とは、売上高から費用を差し引いた金額であり、赤字でも黒字でもない状態が損益分岐点になります。

損益分岐点は「売上=費用」となっているため、赤字と黒字のボーダーラインとも言えるでしょう。

損益分岐点とは

通常、損益分岐点は1年間で計算を行いますが、一定の期間で算出することも可能です。事業を行う上で、どれだけ売上を出せばいいのかを知るために重要な指標の一つと言えます。

どこまでの費用を含めるの?

「損益分岐点」の話をした際に経営者が混乱されることがあります。

それは、「費用をどこまで入れるのか?」です。

特に製造業の経営者の方が多い気がしますが、「製品を作る時の費用」だと思われている場合があります。

損益分岐点で含める費用は、製造にかかる費用以外の人件費等も費用として計算します。

損益分岐点に含める費用

その為、損益計算書上では、「販売費及び一般管理費」までの費用が損益分岐点の費用となります。
売上原価ではないことがポイントです。

損益計算書上の費用

その為、損益分岐点は、営業利益が「0(ゼロ)」の場合と言い換えることができます。

損益計算書上の費用

変動費と固定費

損益分岐点を理解するためには、「変動費」「固定費」の違いを知る必要があります。
何故なら、損益分岐点の計算では「変動費」「固定費」の数値を使用する必要があるからです。

固定費と変動費

変動費とは?

変動費とは、「売上額に応じて増減する費用」のことです。例えば、商品仕入や製品の原材料・加工費が変動費などに挙げられます。

売上を増やすためには、より多くの商品を販売しなくてはいけません。それに伴い、より多くの仕入れをすることになり、その分費用がかかります。

一方、事業の縮小を行い、仕入数を減らすというケースでは変動費は減少しますが、それに応じて売上も減少することになります。

人件費は一般的に固定費に分類されますが、一時的に増員した場合などは変動費と捉えることもあります。

固定費とは?

固定費とは、売上額に関係なく、出ていく金額が決まっている費用のことです。

例えば、家賃や固定資産税、人件費や借入金の支払利息などが、固定費に該当します。先ほど解説したように、売上が大きくなるほど変動費は増加することになりますが、固定費は変化しません。そのため、事業を行っている以上は、継続的にかかる費用でもあります。

売上額には影響を与えない費用であるため、固定費の削減が損益分岐点を引き下げるためのポイントとも言われています。

変動費と固定費を図にして理解する

下記の図は、損益分岐点を説明する際に必ず使われる図です。
この図は、単純で分かりやすそうですが、実は勘違いをしやすい図なのです。

その原因は、斜め線の「売上」です。
この斜めの線は、「売上高線」と呼びます。

初めて、この図を見るとこの斜め線(売上高線)の角度が変わることで、損益分岐点が変わるのだと思い込んでします。
その結果、どのようなケースで角度が変わるのかイメージできず、違和感を覚える図になってしまいます。

固定費と変動費

損益分岐点は理屈はとっても簡単なのですが、「この図の理解がしっくりこない!」と感じる経営者が多いです。
そして、角度が変わるという思い込みがつまずきポイントなのだと気づくのに以外と時間がかかってしまいます。

斜め線(売上高線)の角度は変わらず、変わるのは「経費」とまずは理解してください。

上記図は、1000万円費用がかかり、売上が1000万だった場合なので「損益分岐点上」にいる状態です。
但し、営業利益はゼロなので、実際は赤字決済になると思いますが、、。

下記は売上は変わらず、固定費が200万円少なくなった場合です。
例えば、工場の場所を移動して賃貸料が年間200万円安くなった場合です。

固損益分岐点上の移動

賃貸料は固定費なので、固定費の面積が下方に小さくなります。
売上が変わらず、固定費だけが200万円減ったので、損益分岐点は800万円となり、200万円利益が出たことになります。

斜め線(売上高線)の角度は変わらず、斜め線上の損益分岐点上の位置が変わったことがこの図の重要なところです。

損益分岐点の計算方法

損益分岐点は、必要な数字が揃っていれば誰でも簡単に計算することが可能です。一度計算式・求め方を覚えてしまえば、経営状況の分析資料としても利用できるため、これを機に計算式を覚えておきましょう。損益分岐点の計算方法は、以下の通りです。

損益分岐点の計算式

計算式には主に下記2つの式があります。

計算式1の方が、計算式は単純ですが、計算式2の方がイメージつきやすいです。
計算式2で算出している流れを把握後、より効率的な計算式(計算式1)を理解する方が良いでしょう。

計算式を理解する上で重要なことは、損益分岐点は費用をカバーする為に必要な「売上」金額だということです。
いくら売上があれば、「トントンになるのか」を計算していることを意識してください。

◆計算式1
損益分岐点=固定費÷{1 -(変動費 ÷ 売上高)}

◆計算式2
損益分岐点=固定費÷{(売上高 – 変動費)÷ 売上高 }

固損益分岐点の計算式

損益分岐点の計算は、「理屈」を知ることが重要です。

【計算式を理解する手順】

  1. 変動費と固定費を集計する
  2. 変動費と固定費は、会計ソフトから集計することができますので顧問税理士か経理担当者に確認します。

  3. 売上から変動費を引く
  4. 下記図では、①に該当します。売上から変動費を引くことで「限界利益」を算出します。

    ポイントは、売り上げに対して変動費を先に差し引いている点です。

    変動から先に差し引く理由は、変動費を差し引いた「限界利益」で固定費をどれだけカバーできるかという順番で計算したいからです。

    理屈的には変動費から引いても固定費から差し引いても結果は同じなのですが、「変動費から引いて残りの利益分で固定費を賄えるのか?」という方が経営者の感覚に合っているのかもしれません。
    (固定費から差し引く計算式は見たことありませんが、、。)

  5. 利益分(限界利益)が固定費をカバーできるかを確認する
  6. ①で算出した「限界利益率」は、売上に対して利益がどれくらいあるのかを表しています。

    つまり、固定費がこの率の範囲内であれば、少なくともマイナスにはなりません。

    その為、計算としては、「固定費 ÷ 限界利益率」となるのですが、数学が苦手という経営者にはちょっとわかりずらいと思います。ここはとにかく「限界利益率で固定費を割ると儲かる為にどれだけ売上を作ればいいかを知ることができる」と理解してください。

固損益分岐点の計算式解説

計算の結果算出される売上金額は、「損益分岐点売上高」と呼ばれます。
損益分岐点に到達するのに必要な「売上」を指しています。

【計算例】
例えば、個人事業主の方が一人でネジを1日300個作り、月間20日稼働で全て売れた場合を想定して計算をしたいと思います。

まず、固定費と変動費を確認します。

固定費 人件費 350,000円
固定費 家賃 200,000円
変動費 光熱費 100,000円
変動費 材料費 500,000円

製造業の場合、設備が必要なので設備購入費用が減価償却として固定費に含まれますが、減価償却が終わったと仮定します。

【固定費と変動費の集計】

固定費 変動費
550,000円 600,000円

【売上】

売上/個 300円
1日の製造量(販売量とイコール) 20個
月の売上 1,200,000円

【損益分岐点】

限界利益 600,000円
限界利益率 0.50
損益分岐点売上高 1,100,000円
最低販売数 3,667個

このケースの場合、月の売上が1,200,000円に対して損益分岐点売上高が1,100,000円です。
損益分岐点を超えて、利益は100,000円出ています。

損益分岐点の利用方法

損益分岐点を使用して経営分析をすることを「損益分岐点分析」と言います。「最低でいくら売り上げる必要があるのか」「費用=売上となるラインはどこか」を知る上で、損益分岐点はとても役に立ちます。

加えて、「損益分岐点比率」を理解すると、会社の「安全性」「健全性」を判断することも可能です。損益分岐点比率とは、実際の売上高と損益分岐点売上高の比率のことで、以下のような計算方法で求めます。

◆損益分岐点比率=損益分岐点売上高÷実際の売上高×100

固損益分岐点比率

損益分岐点比率の目安

先ほど解説したように損益分岐点比率は、パーセンテージで表されます。数値は低ければ低いほど良く、反対に高いと改善が必要と判断されます。どれくらいの数値が低い(高い)のか、自社の現状を知っておくことで、損益分岐点分析がより意味のあるものになるでしょう。

但し、損益分岐点比率は一概にどの比率が良いとは判断できません。
何故なら、業種により利益の出し方が違うからです。

20%前後あれば問題ないと言われますがこれも一般的な話なので正直なんとも言えません。

重要なのは継続して数値をウォッチしていくことです。
前年度より少しでもこの比率を落としていく為にどのような対策をとっていくかを考えることが重要です。
「無駄なコストがないか」「業務改善によりコストカットできるところはないのか?」というの問題意識を持つ上で重要な指標となります。

損益計算書を用いて固定費、変動費を減らせるコストを見つける

損益分岐点は、損益計算書と紐づけて考えるとどの部分のコストを下げるとよいのかのイメージがわきやすいです。

業種にもよりますが、損益分岐点を下げるには、変動費から見直してみるとよいです。
固定費は、人件費、賃貸料など金額が大きく且つ、動かしにくいので、コストを落とすのは容易ではありません。
しかし、変動費は主に、材料等の仕入になります。

また、販売管理費は、雑費等のすぐに改善できるコストがありますのでまずは、変動費から見直すとよいでしょう。

会社は、「変動費型」と「固定費型」に分かれます。

商品を仕入れて、販売する卸業や小売業が「変動費型」の代表例です。
逆に製造業は「固定費型」の代表となります。

会社の規模が大きくなると固定費が大きくなります。
何故なら、社員数が多くなり且つ工場の保持/管理費用は利益を圧迫します。

世界の時価総額1位(2020年07月末時点)は、アップル社です。iPhneやMacBookといったハードウェアを作っている会社ですが、実は、製造ラインといったを極力持たず、製造&組み立てを外部委託しています。

つまり、固定費を削減したかったのです。

技術革新の早いIT業界では、工場のラインを素早く柔軟に変更する必要があり、その変更&管理コストは莫大です。
毎年新製品を発売する必要がある為、このコストは継続的な費用となり固定費になってしまいます。

その為、アップル社は製造&組み立てを外部委託したのです。

アップル社の委託を受け世界的なグローバル企業になったのが「鴻海精密工業(ホンハイ)」です。
シャープを買収した企業でも有名ですね。

アップルは、固定費を減らすことで大きな利益を上げました。そしてその利益を開発費に使うことで次の素晴らしい製品を創り出すのです。

固損益分岐点上の移動
千須和知久
監修者
千須和 知久 税理士
S55東京国税局入局、H28ちずわ税理士事務所を開業。
財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応

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