財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応
減価償却とは?
「減価償却の意味がわからない!なんで減価償却なんてあるの?」
なぜ?と言われると「偉い人が決めたから」です。なので、こういうものは理由を深く考えずに覚えてしまうだけで良いでしょう。
……と言うと話が終わるので、(賛同するかどうかは別として)会社の価値を正確に測るために減価償却という面倒な考え方があります。
減価償却とは、長期間にわたって使用される設備投資などの固定資産取得に対する支出(経費)を、決められた期間にわたって経費配分する処理のことを言います。
下記の例では、例えば事業で使うバスを中古で購入して、購入金額を3年で経費配分した例です。
購入初月に購入したので、ちょうど3年目に経費配分が終了しますが、購入月が期中の場合、その期中では、経過した期間分のみが経費計上となります。
中古車を購入するメリットに関する詳細は下記をご覧ください。
お金持ちの社長が新中古車を買う理由減価ってなに?
減価とは購入時の値段から価値が下がっていくことで、償却とは何年でその価値が無くなるかということです。
新車で購入した100万円の自動車は時間が経つと価値が下がります。例えば3年乗って中古としてオークションに出した際、40万円で売却できました。
つまりこの車の価値は、3年で60%減少したわけです。
ところが同じ車種、同じ金額、同じ時期に新車だった別の車は、50万円で売却されていました。こちらは3年で価値が50%減少しています。恐らくこちらの車は丁寧に乗っていたのでしょう。
個人が持つ中古車の場合、売買する時の価格がその中古車の価値だと認識できますが、会社になるとそうではありません。
会社は決算書などで自社の価値を毎年明らかにする必要があります。そのため、持っている車も会社の価値の1つだと考えます。
では、丁寧に乗っていたからこの車は50万円、この車はきれいじゃないから40万円と誰かが価値を決めても良いのでしょうか。
何千種類もある車に対して基準を設けて、1台1台価値を決めていくことは不可能です。
そこで、自動車であれば以下の様に用途別にで価値が減少していく期間(耐用年数)を設定し、わかりやすい価値基準を設けます。
小型車:4年
貨物自動車
ダンプ式のもの:4年
その他のもの:5年
報道通信用のもの:5年
その他のもの:6年参考:
減価償却資産の種類と耐用年数一覧
あくまでも決算書上の話ですが、もし100万円の小型車を購入した場合、1年経つと75万円、2年経つと50万円、4年で0円の価値になると考えます(もう少し複雑です)。
これが減価償却の考え方です。
ではもう少し詳しく減価償却とその対象物(固定資産)について説明していきます。
減価償却の考え方1.固定資産のみが減価償却対象
減価償却の対象になる勘定科目は固定資産のみです。
固定資産とは
固定資産とは、会社が複数年にわたって所有・使用する資産になる対象物のことです。
固定資産には、有形固定資産と無形固定資産の2種類があります。
有形固定資産は、不動産、車、機械、土地、建物など形があるもので、無形固定資産は、営業権、特許権、ソフトウェア、各種利用許諾件などの形がないものです。
固定資産の反対は流動資産と言い、現金、有価証券、債権、原材料、商品など一時的に企業が所有、または1年以内に現金化できる資産のことです。
ただし固定資産であっても、土地、骨董品、絵画など、時間の経過で価値が減少しにくい(または上がる可能性がある)資産は、減価償却資産には含まれません。
なお、平成27年から一点100万円未満の絵画などの美術品は減価償却の対象となりました。
つまり、社長の部屋に飾る高そうな絵は今まで経費計上できなかったのですが、それが経費計上できるようになったということです。
絵画などは、時代や人により価値がまちまちな為価値を徐々に下げていくという会計的な発想がマッチしませんでした。
しかし、それが減価償却できるようになったのでびっくりです。
どんな力が動いたのでしょうか、、、。
減価償却の考え方2.減価償却の仕訳方法
では実際に会社で購入したものを減価償却に従って仕訳をした場合、どのように記載すれば良いでしょうか。
たとえば、会社のキャッシュとして1億円を持っていて、新しい印刷設備投資を行うために1億円の印刷機を購入したとします。
通常は、1億円をそのまま経費として考え、このように会計処理したいはずです。
※単位は100万円
—–
借方 貸方
機械類 100 現金 100
—–
ところが現実は、このように処理されます。
—–
借方 貸方
減価償却費 25 機械類 25
—–
4分の1……(固定資産の種類によって数字は変わります)。これは「手元から1億円のキャッシュがなくなったのに、経費は2,500万円しか処理されていない。」ということです。
この場合、ありがちなのは経費計上が少ないので、納税額が多く発生してしまうことを後で知るということです。
大きな設備投資をした後で、納税の為に銀行から借り入れるなんてこともよくあります、、、。
減価償却と固定資産の概念を持たずに社長になった方は、この減価償却の仕訳処理に衝撃を受けます。
減価償却の考え方3.ある程度投資収益率を把握できる
会社の会計は1年毎で考えます。たとえば、家賃、電気代、人件費、広告費など、ほとんどの経費は期をまたぐことはありません。
ところが、固定資産に計上される不動産や機械類、権利などは、必ず複数年使われる前提のものばかりです。
設備投資のために購入した1億円の印刷機も複数年に渡って使い続けます。
つまり、購入初年度に1億円全てを経費計上できてしまうと購入初年度は大赤字になり、2年目以降は大黒字になってしまう可能性があります。
複数年使えるものをその期だけの会計処理だけで済ませてしまうと、実際の会社の経営状態と数字が合わなくなってしまいます。
これでは、会社の財務状況を簡単に把握することができません(投資に対する収益率=投資収益率が把握できなくなる)。
そのため、建物や自動車など種類によって、劣化具合による耐用年数を予め定めて、耐用年数の期間分で経費計上できるようにすることで、公平な会計処理ができるようにしているのです。
減価償却の考え方4.固定資産の評価額は劣化する
印刷機械を使い始めた期が終わっても、来期もその印刷機械は使えます。ここで印刷機械は固定資産になります。固定資産であるため、評価額を出して固定資産税額を決めなくてはいけません。
では、1億円の印刷機の場合、いくらと評価すれば良いのでしょうか。
仮に、乱暴に使って1年で壊れてしまっても、反対に1度も使わなかったとしても、固定資産の評価額は減価償却で計上された分を差し引いたものになります。つまり、
取得額1億円-減価償却費の累計額=期末の固定資産評価額
これが固定資産の評価額ということになります。
ちなみに印刷機の場合、耐用年数は以下のようになります。この印刷機が「デジタル印刷システム設備」だった場合4年です。
—–
デジタル印刷システム設備:4年
製本業用設備:7年
新聞業用設備
モノタイプ、写真又は通信設備:3年
その他の設備:10年
その他の設備:10年
—–
つまり、1年の減価償却額は2,500万円となるため、当該期を締めた際の印刷機の評価額は7,500万円ということになります。
1億円の印刷機を購入すると、手元から1億円がなくなっているにもかかわらず経費処理額は2,500万円しかありません。
もちろん、残り3年に渡って2,500万円づつ経費処理されるため、最終的にプラスマイナスゼロになるのですが、キャッシュが大きく減少するにもかかわらず経費処理できないため、一時的にキャッシュフローが非常に悪化します。
そのため、大きな設備投資を行う場合には、キャッシュにある程度余裕が有るときに融資を活用してキャッシュの大幅な減少を防ぎます。
おまけ:個人的な減価償却に対する思い
これは個人的な意見ですが、今の減価償却制度には違和感を感じています。
例えば、減価償却という概念がなく、建物を購入した場合に全額費用にすると、損益計算書上では大きな赤字です。この赤字は、損益計算書による経営状態の比較が著しく阻害されてしまう可能性があります。
とは言え、会社で一番重要なことはキャッシュフローが良い状態か、キャッシュが効果的に回されているか、限界利益が高く推移しているかだと思っています。
実際、減価償却資産を取得した場合、手元からキャッシュがなくなり、キャッシュフローが悪くなっているにもかかわらず、課税所得には反映されないため、即時の節税対策には繋がりません。
特に20年もの期間をかけて減価償却されていく資産の場合、会社が20年存続しないと権利の執行が完了されないことになります。
今は、以前に比べて重要視されていなかったキャッシュフロー計算書が、会社の最重要決算書類になっています。
赤字の中身さえ把握できるのであれば、減価償却自体は見せかけの数字を作る要素に思えてなりません。もちろん、この意見に反対される方も大勢いらっしゃるでしょうけど。
ちなみに、現在「生産性向上設備投資促進税制」という税制優遇制度があり、即時の一括償却も可能になっています。あまり時間もありませんが、活用される方はお急ぎを。
1.2014年1月20日~2016年3月31日まで:
固定資産取得価額の5%、建物および構築物の場合は3%の税額控除、または即時償却が可能となります。
2.2016年4月1日~2017年3月31日まで:
固定資産取得価額の4%、建物および構築物の場合は2%の税額控除、または特別償却50%(建物および構築物の場合は25%)が可能となります。
減価償却額を決める固定資産の耐用年数や、定額法と定率法に関しては以下を参考にしてください。
参考:
減価償却の定額法と定率法は経営状態で使い分ける!
減価償却資産の種類と耐用年数一覧
財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応