【図解でわかる!】決算書見せて!4つの開示義務と3つの任意開示

【図解でわかる!】決算書見せて!4つの開示義務と3つの任意開示
千須和知久
監修者
千須和 知久 税理士
S55東京国税局入局、H28ちずわ税理士事務所を開業。
財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応

決算書は他人に開示することがある

さて今日は、決算書は他人に見せなければいけないことがある、というお話です。

まずは決算書のおさらいをしておきましょう。

企業が利害関係者(債権者や投資家等)に、一定期間の財務状態や経営成績を報告するための書類。財務諸表ともいう。主に貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書があり、これらを「財務3表」と呼ぶ。

財務3表

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・貸借対照表

・損益計算書

・キャッシュフロー計算書

—–

これら全てを理解してから起業をする社長はほとんどいませんが、決算書をある程度読めなければ最低限の会社経営は難しいはずです。

さらに社長であれば、決算書に開示義務があることも知っておく必要がありますし、経営上、決算書の開示を要求される場面があることも知っておかなければいけません。

つまり、会社は決算書を外部に見られることを想定して作成されなければいけないということです。

そこで今回は、決算書を必ず開示しなければいけない開示義務、そして、任意で開示を求められるシチュエーションに関してお話したいと思います。

決算報告書とは

決算書の開示義務と任意開示をするシチュエーションをお話する前に、決算報告書に関して説明をしておきます。

決算報告書とは、決算書とは少し違い、決算内容を報告するための書類のことを言います。具体的には、決算書の財務3表に利益処分計算書、監査報告書、営業報告書などを加えたものを決算報告書と呼びます。

決算報告書

決算報告とは

決算報告とは、その会社が決算を行って明らかになったある会計期間の経営状態や業績などを、株主、債権者、税務署などに報告すること自体を言います。

報告を受けた人により、決算報告の見方がそれぞれ異なります。

株主にとっては、「利益がどれくらい出て配当金をどれだけ受け取れるのか?」。

債権者主にとっては、具体的には銀行ですが、「利益が出てちゃんと貸付の回収が行えるのか?。また、追加の貸付が行えないか?」。

税務署にとっては、「納税金額がどれくらいか?。去年と比べて極端に納税額が小さくなっていなか?」

といったことを気にされると思います。

利益処分計算書とは

利益処分計算書とは企業が出した利益をどう処分をしたかを計算した書類です。

次期に繰り越す利益として当期未処分利益や任意積立金、処理分として株主配当金、役員賞与などがあります。

監査報告書とは

監査人(監査法人)の監査結果に基づいた報告書のことで、監査人が負うべき責任の範囲内において、適正な会計処理が行われているかを判断した報告書のことです。

営業報告書とは

主に株主に対して作成される書類のことで、会社の事業概要、役員の就任・退任・移動に関する事項、その他株式に関する事項を記載し、会社の営業状態を知ってもらう報告書のことを言います。

決算書の開示義務1.全ての法人が税務署に対して

まず決算書の開示義務先として税務署が挙げられます。

税務署は、決算報告書、税務申告書の内容を確認して、その会社の決算内容に不備や虚偽がないか判断します。

決算報告書を見てすぐに分かる脱税は論外ですが、細かな間違いでも税務署は見過ごしません。

例えば、売上-売上原価=売上総利益 が赤字なら期末の在庫数が一致しているかを判断したり、営業損益が大きければ役員報酬と申告税の比較をしたり、業種・業界での利益比率を加味した申告漏れなども見られます。

税務申告書とは

税務申告書とは、決算期から2か月以内に税務申告書を作成して税務署へ提出するための書類です。税務申告書は以下の一式の総称です。

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・法人税申告書
・勘定科目内訳書
・法人事業概況書
・消費税申告書※
・地方税申告書
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※消費税は納税義務がある事業者のみ

決算書の開示義務2.大会社の一般開示

決算書は、一定の株主に対しても報告義務があります。上場会社であれば、決算報告書の公開が必須であることはご存知だと思います。

ただし、上場していなくても、会社法上の大会社は貸借対照表、及び損益計算書の開示は義務です。開示を行う方法として公告があり、公告は官報や新聞を通じて行われます。

大会社は、規模の大きい会社のことをいい、日本の会社法においては、最終事業年度にかかる貸借対照表上で、資本金として計上した額が5億円以上、または負債として計上した額の合計額が200億円以上の株式会社のことをいいます(会社法第2条6号)。これは、会社法施行前の商法などの定義と同じで、会社法では、「大会社」と「それ以外の会社」という区分だけになっています。

大会社

参考:
大会社とは|金融経済用語集

もし公告を行わなかった場合は、役員に対して100万円以下の罰金が課されます。公告は代替手段として、WEBサイトへの掲載等を5年間継続公開することも認められています。

決算書の開示義務3.債権者に対して

会社法442条3項により、その会社の債権者が決算書の開示を求めた場合は、開示する義務が生じます。

決算書の開示義務4.議決権比率3%以上の株主に対して

日本の中小企業の場合、社長が株式の大半を保有していることが多いため、議決権比率を意識をすることはないかもしれません。

そのため、決算書は見せなくて良いものと思っている社長もいるでしょう。

ところが、株主にはその持分比率(通常は議決権比率と同様)によって、決算書の開示を要求する権利が与えられることがあります。

議決権比率によって保有する権利は以下の通りです。

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・議決権比率100%の場合:株主全員の同意による権利
・議決権比率3分の2以上の場合:定款変更、監査役の解任、株主総会の特殊決議、株主総会の特別決議を単独採決
・議決権比率50%超の場合:取締役の選任・解任、監査役の選任、計算書類の承認、株主総会の普通決議を単独採決
・議決権比率10%以上の場合:解散請求
・議決権比率3%以上の場合:株主総会の招集、帳簿の閲覧
・議決権比率1%以上の場合:株主提案権
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つまり中小企業であっても、3%以上の株式を保有している株主は決算書の全てを閲覧する権利があるということになります。

決算書の任意開示1.金融機関に対して

次に決算書を任意で開示する場合です。以下のような場合、社長は決算書を開示するか判断しなければいけません。

まずは、金融機関からの決算書開示要求です。金融機関から決算書の開示が要求される場合は、ほとんどが融資申請をした場合でしょう。

金融機関から求められた場合に決算書を見せる見せないは義務ではありません。ただし、決算書を見せないと、融資は絶対にしてくれません。

また、融資実行後も銀行は、毎年、決算書の開示を要求します。

開始しないと借り入れたお金を引き上げることはありませんが、次回の融資を依頼することを考えた場合は、極力開示することをお勧めします。

仮に決算書の数字が良くない場合でも、良くない理由を説明しつつ改善策の取り組みを伝えておくことで、良好な関係を銀行と築くことを心がけましょう。

決算書の任意開示2.取引先に対して

ある程度の規模の企業、特に上場企業が取引予定の会社に対して決算書の開示を求めてくることは普通のことです。

なぜなら、大企業はリスクヘッジのために取引先の与信状況を把握しなければいけないためです。

具体的には、取引先からの支払いが間違いなく行われるのかを心配しているのです。

いくら売上が大きくてもキャッシュフルーが自転車操業だと自分のところの支払いが後回しにされる心配があります。

その為決算書から取引先の支払い能力を確認するのです。

もちろん取引先は、決算書の開示要求を拒否することはできますが、その場合取り引きは難しくなるでしょう。

まずは決算書の開示に応じて、足りない与信分をどう補えば取り引きに繋がるかを考えた方が建設的だと言えます。

決算書の任意開示3.社員に対して

会社によっては、社員が決算書の開示を要求してくることはあります。

会社法第440条第1項には、原則として、株式会社は貸借対照表の公告が必須だと記載されています。

つまり、決算書全てを見ることはできませんが、貸借対照表は公告を通じて、社員でも閲覧できるということです。

ただし、中小企業の場合、公告の義務はありますが罰則はありません。結果、社員に貸借対照表を見せなくても、咎められることはありません。

決算書の開示義務と任意開示に関するまとめ

決算書の開示義務と任意開示を整理すると下記のようになります。

決算書の開示義務

決算書には税務特有のルールがあり、よくわからずに社長自らが決算書をまとめていることもあるでしょう。

わかっている社長であれば(もしくは経理担当であれば)問題はないのですが、決算書は開示義務が生じたり、任意開示、または経営上半ば強制的に開示しなければいけないこともあります。

決算書は誰が作っても、どのような手段で作っても良いのですが、記載の仕方やまとめ方によっては誤解を生じかねません。

それによって、融資判断や取り引き判断でNGが出たり、税務署から色々言われたり……、ということもあり得ます

税理士にお願いするにしても、決算書、決算報告書の作成は、顧問税理士の月額報酬でまかなえるものではないため、別途費用が必要になります。

起業社長はコストカットをしたいと思うでしょうが、色々と不都合を招きかねないため、決算書、決算報告書の作成は必ず専門家に任せ、必要経費だと割り切ったほうが懸命です。

あなたの会社の決算書を見たがっている方はたくさんいます。いつ誰に決算書の開示要求をされても良いように準備しておきましょう。

決算書を見る人1.経営者
決算書を見る人2.税理士
決算書を見る人3.金融機関
決算書を見る人4.信用保証協会
決算書を見る人5.日本政策金融公庫
決算書を見る人6.ベンチャーキャピタル、エンジェル
決算書を見る人7.機関投資家、個人投資家、証券会社
決算書を見る人8.信用調査会社
決算書を見る人9.社員
決算書を見る人10.取引先
決算書を見る人11.株主

参考:
決算書は誰が何の目的で使うもの?11の立場と目的

決算書の作成がお粗末だと、社長の経営までお粗末に見える可能性もありますから……。

千須和知久
監修者
千須和 知久 税理士
S55東京国税局入局、H28ちずわ税理士事務所を開業。
財務に悩む経営者(中小企業)に「しっかり寄り添う対応」を信念とする。国税局の立場と税理士の立場の両方を経験している税務業界40年の大ベテラン。法人税、所得税、相続税・贈与税、税務相談・申告、事業継承、税務調査対応など幅広業務を対応

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