損益計算書で見る経営安全率の目安と安全性を高める方法

損益計算書で見る経営安全率の目安と安全性を高める方法

企業の安全性を図る経営安全率

「心穏やかに、安定した会社経営をしたい……。」

いつも攻めていて強気な社長でも、たまには力を抜きたいこともあります。

「売り上げも利益も増やし続けないと安心できない!」

こんな考えばかりでは身も心も本当に疲れてしまいます。

そこで、会社の安全性・安定性を測る指標を使って、ある程度安心感がある経営を行えるように普段からコントロールしておきましょう。

会社の安全性・安定性を測る指標の1つに「経営安全率」があります。経営安全率は、財務3表の「損益計算書」を読みこめばわかります。

財務3表とは、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書のことで、もちろん社長は全て読めなければいいけません。

損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の基本的な内容を理解したい場合は以下を参考にしてください。

参考:
損益計算書の見方がわかる粗利・営業利益・経常利益…5つの利益
貸借対照表|バランスシートの見方を8分でマスターする3ステップ
営業・財務・投資を8分で理解するキャッシュフロー計算書の見方

それでは、損益計算書の中でも重要な指標の1つであり、経営を安心して行える目標値を示す「経営安全率」について説明していきましょう。

経営安全率とは

経営安全率とは、限界利益を経常利益がどのくらい上回っているかを表す比率のことです。

経営安全率(%)=経常利益÷限界利益×100

仮に経営安全率が5%あると、経常利益が5%減少しても赤字にはならないということです。つまり経営安全率が高いほど倒産しにくい会社であり、体力のある安定性の高い会社だと判断できます。

経営安全率の計算事例

例えば、売上が1億円、仕入費3,500万円、人件費3,000万円、家賃光熱費600万円、宣伝広告費700万円、流通運搬費1,500万円の小売業者があるとします。

先に限界利益を計算します。ちなみに限界利益とは以下の通りです。

限界利益は、会社経営に非常に重要な指標です。ここがプラスにならない限り、その商売はそもそも成り立ちません。限界利益は以下の式どちらかで表されます。

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1.限界利益=売上-変動費
2.限界利益=固定費+利益
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参考:
損益計算書の限界利益と損益分岐点を知れば会社は成長する

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限界利益:
売上1億円-仕入費3,500万円=6,500万円

経常利益:
売上1億円-(3,500万円-3,000万円-600万円-700万円-1500万円)=700万円

経営安全率:
700万円÷6,500万円×100=10.77%
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つまり、この小売業者の経営安全率は10.77%ということになります。

経営安全率の考え方

限界利益は、売上から変動費を引いたものです。変動費とは、商品の原価や材料費など、売上に増減があると比例して変動する費用のことです。そのため売上が増えるほど変動費も上がります。

一方、経常利益とは、限界利益から固定費を差し引いたものです。固定費は家賃や人件費などの経費のように売上に影響されずに発生する費用のことです。

変動費と固定費はどちらも会社経営に必要な経費ですが、変動費は売上と直接的な関係があることに対して、固定費は売上とは直接的な関係はありません。

そのため、減らせるなら固定費を減らしたいということはおわかりでしょう。

つまり経営安全率とは、固定費が会社の利益にどれだけ影響を及ぼしているかを示す指標だと認識すれば良いでしょう。

ちなみに経営安全率の目標値は15%だと言われています。先ほどの小売業者の経営安全率は10.77%であるため、もっと経営安全率を上げなければいけません。

経営安全率が15%以上あれば、売上が3割~4割減ったとしても持ちこたえることができます。逆に経営安全率が低い会社は、売上が減少した場合に倒産しやすいと言えます。

経営安全率を15%以上に保つのは非常に難しいことですが、何か方法はあるのでしょうか。

経営安全率を上げる方法1.販売価格を上げる

経営安全率を上げる対策は大きく分けて3つあります。

まず1つ目は、販売価格を上げることです。

商品の販売価格を高くすれば、経常利益も上がります。

販売価格を上げるためには、市場の競争に勝たなければいけません。製品のクオリティやアフターフォローなどが他社よりも優れていることを市場に認知させなければいけません。

例えば、東京ディズニーランドのワンデーパスポートは開演以来、ずっと値上げを続けています。

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東京ディズニーランドのワンデーパスポート変遷
1983年 3900円
1987年 4200円
1989年 4400円
1992年 4800円
1996年 5100円
1997年 5200円
2001年 5500円
2006年 5800円
2011年 6200円
2014年 6400円
2015年 6900円
2016年 7400円
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ディズニーランドはアトラクションも増え、固定費は増していますが、それ以上に販売価格を上げることで経営安全率を高めることが可能です。

経営安全率を上げる方法2.売上原価を下げる

2つ目は、売上原価(仕入原価)を下げることです。

変動費である仕入費などを抑えることで経営安全率を高められます。

仕入原価を抑えるためには、仕入先を複数持ち競争させることです。クオリティを落とすことなく仕入先を増やすことができれば、確実に仕入原価を抑えられるでしょう。

また、商品を多く仕入れて、価格にスケールメリットを持たせる方法もあります。商品を多く仕入れるためにはまとまったキャッシュが必要です。この時に融資を受ける検討しても良いでしょう。

商売には流行り廃りがあり、今この時期でなければ売れない!というものはたくさんあります。

特に、ある分野に特化した商材を取り扱っていると、商材特有の売れる臭いはプロの肌感でしかわかりません。でも、いざ利益を上げるのは今だ!と思っても、元手がなければ商材を仕入れることもできません。

なるべくロットを大きくし、仕入れ単価を下げ、商材あたりの利益を上げるためにはある程度のお金が必要になります。

その際に「スケールメリットで商売のチャンスを買う」ために融資が活用されます。

参考:
その融資本当に必要?資金調達が担う5つの目的とは

「販売価格を上げる行為」と「仕入原価を下げる行為」は、どちらも限界利益を上げることになります。

経営安全率を上げる方法3.固定費を下げる

3つ目は、固定費を下げることです。

固定費の中で最も金額が大きい勘定科目は人件費でしょう。

粗利益に対する人件費の割合を「労働分配率」と言い、その値は通常40~60%程度だと言われています。この割合が高過ぎる企業は、売上に対して人件費が過剰なため労働効率が悪いということになります。

もちろんビジネスモデルや業種によって適正値は変わるため、自社の労働分配率が適正値なのかを以下の業種別の労働分配率一覧から確認しておきましょう。

参考:
参考になる業種別平均値!売上高人件費率と労働分配率

人件費以外では、会社の設備が過剰になっていないか、また、非効率的な管理システムや管理体制になっていないかなど、社員が意識することで固定費削減の可否が判断できるものもあります。

特にインターネットの普及で、今まで減らすことができなかった管理費が大幅に削減できるサービスやシステムも多くあるため、以下の様に十分に検討の余地はあるでしょう。

参考:
請求管理業務にクラウドサービスを使う4つのメリット

業種別経営安全率の目安と安全性を高める方法まとめ

難しい言葉を使うとわかりにくくなってしまうので、ざっくり言ってしまうと「固定費が多い経営はいけませんよ!」ということです(私はそう受け取っています)。

通常は売上が伸びていけば、人件費、設備費などの固定費も増えていきます(増やさなければいけない)。

ただし、社長は経営のスケールメリットを出すことで、経費に占める固定費の割合を徐々に下げていく努力をしなければいけません。

もちろん冒頭でお話した通り一般的な経営安全率は15%と言われていますが、今回の記事を読んでいただければ、業種によって経営安全率が変わることにはすぐに気が付くはずです。

というわけで、以下に業種別の経営安全率を記しておきます。

ちなみに:業種別の経営安全率

以下は、引用した業種別経営安全率です。恐らくTKCのデータベースを基に作成されたのではないかと思います。黒字企業の経営安全率なので、私たちが目指すべき数値としては間違っていないでしょう。

業種別経営安全率(黒字企業平均:%)
全業種:8.3%
農業:11.3%
林業:6.4%
漁業:1.1%
鉱業:8.4%
建設業:6.9%
製造業:8.8%
電気・ガス・水道業:9.0%
運輸・通信業:3.9%
卸売業:10.3%
小売業:6.7%
飲食店:4.6%
金融・保険業:16.8%
不動産業:14.0%
サービス業:9.1%

参考:
知っておきたいポイント | 経営戦略会議 » Blog Archive » 経営安全率とは?(※リンク切れ)

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